日車協連は強欲か?記者発表前夜に業界記者は何を思う

BSR webより

 日車協連は強欲か?記者発表前夜に業界記者は何を思う

 ■自動車保険の値上げを車体整備事業者に求めるべきではない

2024年5月23日、車体整備事業者(事故車を修理する自動車鈑金工場)の全国組織である日本自動車車体整備協同組合連合会が、保険会社から受ける事故車修理の工数に対して掛ける時間当たりの工賃単価について、大手保険会社と団体協約締結に向けた交渉を開始するにあたり記者発表を行うことになった。工賃単価アップの幅は17.5%以上だ。原稿はその前日、22日に書いているが、大手新聞社各社が自動車保険の値上げのニュースが飛び交っている。このタイミングで記者発表を控えた日車協連の旗色は芳しいとは言えない。
ビッグモーターの大規模な保険金の不正請求によって車体整備事業者全体が同様のことをしているのではないかと、厳しい目で見られている。保険会社は事故の頻度や物価の上昇などを主要な値上げの理由としているが、少なくとも任意保険において値上げの必要があるか、と言われれば疑問があると言わざるを得ない。単純な保険会社各社の決算の結果からではない。もし、あなたが納めた自動車任意保険の保険料の半分以上を保険会社の取り分だと言われたらどうだろうか?そして、支払われている保険料も少しずつ減っているとしたらどうだろうか?
車体整備事業者が、なぜ17.5%以上も工賃単価をあげてほしいと訴えるのか……そのことを業界記者の思うところを紹介する。一般的な経済誌と切り口も考え方も異なる、少数派の偏った意見かもしれない。だが、そういった見方もあると知って頂ければ幸甚だ。

■10年前から支払保険金より保険会社の取り分が多い傾向にあった!

表は、損害保険料率算出機構が毎年発行している保険の概況を基に作成したもの。任意保険における保険料収入(収入保険料 青)から実際に保険金として支払われた金額(支払保険金 橙)と、保険会社が事業経費として得た金額(付加保険料 灰)が分かるようにしたもの。2014年より支払保険金よりも保険会社の事業経費の方が高くなっている年が多いことが分かる。転換期となった2014年の前年(2013年)は事故あり係数を導入した年にあたり、20~30万円のボリュームゾーンの修理で任意保険の利用が難しくなる運用が開始された時期と重なる。

2022年の車体整備事業者の取り分を試算してみる。計算は任意保険の対物賠償と車両保険の支払保険金のうち、「自動車対自動車」と「自動車単独」の項目から求めた。対物賠償は5,401億円、車両保険は5,223億円で、およそ1兆624億円(支払保険金全体は1兆9,430億円)となった。この中には、自動車の部品代やレッカー台、代車費用などが含まれるため、純粋な工賃を割り出してみると…

 

■日車協連の団体交渉を17.5%満額で通しても余裕

では、日車協連が保険会社に求めている17.5%(正確には以上)の工賃単価アップを通した場合は次の通り。
3,813億円×1.175%≒4,480億円
およそ667億円アップにしかならない。それも最大で、である。日車協連は会員企業が約4,000社。車体整備事業者は正確な統計はないものの、約20,000軒と言われている。日車協連と団体協約を結んでもその影響は傘下の企業にしか影響しない。実に全体の20%だ。約133億円にしかならない。支払の余力は充分あるとみて良いだろう。
筆者は大が悪で、小が善とは言わない。だが、少なくとも車体整備事業者の工賃単価アップが理由にされるべきではないと考えている。その理由や根拠は日車協連自身が語ることになる。最後に2025年1月から軽自動車の型式別料率クラスが現在の3段階から7段階に変更されることが決まっている。リスク計算が細分化され、保険料の適正化が図られるというが、果たしてどうだろうか。2025年の保険概況は2026年4月に発表される。自動車保険の利用者は是非厳しい目で監視してほしい。

 

 

 

#日車協連 #車体整備 #BSR